SiC MOSFET シリコンカーバイトをさわる
前のBlogに書きましたエンジニアの交流会も早くやりたいのですが,このところの多忙は異常です.その多忙の中からの話題です.
今はレーザーメインですが,15年ほど前は電源の仕事を良くやっておりました.技術的には面白いのですが,あのころはコストダウンがメインだったので予算もカスカスでしたね.
最近またある人的つながりで電源開発の依頼が来るようになりました.EV車関係です.昔と違うのはとにかく新しい技術と開発スピードが求められている事です.お客様と秘密契約があるので詳しくは書けませんが,抵触しない範囲でその一つをご紹介します.
開発している電源は,DC400V入力の14V/100A出力で,トランスを使った絶縁型です.メインスイッチはロームのSiCを使いました.これをフェーズシフトとZVSで制御します.
制御ICはDSPによるデジタル制御です.デジタル制御は全てをC言語で記述できるのでとても楽ちんです.スイッチング周波数の設定,微妙なDELAYの挿入,同期整流のタイミングなどもCで記述すれば良いだけです.もしこれがアナログだったら大変です.もちろんフィードバック制御も数式を記述するだけで終わりです.
これは300Vで動かした時のメインスイッチのドレイン波形です.とても綺麗です.まるで計測器のパルスジェネレータの様でスイッチングによる波形には見えません.
SiCを触るのは今回が初めてです.正直ここまで出せるまでにSiCを飛ばす失敗も.一番のポイントはゲート・ドライブ回路でした.これまでのMOSFETとは全然違います.それからハイサイド側ゲート・ドライバに供給する電源も大きなポイントでした.今回従来のブートストラップ法で行ったのですが,SiCが速くてFRDは直ぐにやられました.今はある工夫で克服しております.
さらにだわったのは基板です.特に怖いのはスイッチングノイズが,DSPからゲート・ドライバへの制御ラインに乗る事です.写真の波形もこだわったパターンのお陰です.
さてまだ0次~1次試作レベルですが,トランスによる絶縁型にもかかわらず効率は97%超えを達成しました.この秘密は皆さんも見たことも無いであろう回路トポロジと,これも知られていない磁性材料がポイントです.
とにかくEV車関係は開発スピードが求められています.それほどまでにビジネスが沸騰しています.でも物の開発は,人間様のそんな事情とは関係なしの物理法則との丹念な会話です.地味ですがこれを積み重ねるしかありません.
今回の試作で,約60項目の問題点や改良点や気づき(ノウハウというべきかも)が技術ノートに書き込まれました.これが私の宝です.このノートが出来上がるとこの試作ボードの役目は終わりです.次の改良試作ボードに移りましょう.