B&K4006マイクロフォンが壊れる2
B&K4006のスペックですが,
・周波数特性:20~20kHz(±2dB)
・指向性:無指向
・感度:10mV(94dBspl)
・固有ノイズ:15dB(A)
・最大音圧:143dBspl
・出力インピーダンス:75Ω以下
となっています.94dBspl(Sound Pressure Level)とは基準圧力1pa(パスカル)のことです.そして人間の可聴限界を0dBsplにしています.4006の感度10mVは録音用コンデンサマイクとして標準的な値です.ちなみに94dBsplの音とは電車のガード下が約100dBsplなので結構大きな音であることが解ります.固有ノイズの(A)とは聴感補正のA-Weightを掛けた時の値です.
さてその4006の内部回路ですが次の様になっていました.J-FETによるソースフォロワとバイポーラトランジスタによるエミッタフォロワ.そして出力トランス.
この回路の目的は増幅ではなくひたすらインピーダンス変換です.ただトランスで-12dBもゲインを下げているので,もったいない感じがしますが,出力インピーダンスを下げて重いケーブルを駆動するのと,94dBsplで10mV前後という標準感度を守るためには仕方がありません.
初段のNF5102はナショナル・セミコンダクタ社のプロセス51というJ-FETでもともとは高速スイッチ用です.gmは8.5mSで入力換算雑音は6nV/√Hzです.2段目のBC560は2SA1015とほぼ同じ特性です.
しかしこの回路.読めば読むほど卓越したアナログ・エンジニアの知恵を感じざるを得ません.
まずマイクカプセルからの信号は初段のゲートに入力されますが,ソースには90μAの定電流源による強力な帰還がかかるためゲート-ソース間のCgsは交流的に実質ゼロボルトとなり,その存在を無視することが出来ます.
次に2段目ですが,2段目のエミッタはトランスを駆動するのと同時に,初段のドレインにブートストラップを掛けています.その結果ゲート-ドレイン間のCgdが交流的にゼロボルトとなり同じく存在を無視することが出来ます.
CgsとCgdの存在を消すことは大きな意味があります.それはマイクカプセルからの大事な信号の吸い込みと,CgsとCgdの非線形性によるひずみを防止するからです.
ソースフォロワとエミッタフォロアは共に定電流負荷なのでGNDに対するDC動作点が不定です.そこでDC動作点を決めているのが,VBからゲートにつながれた1GΩとピコアンペア・ダイオードのBAV45Aです.
ピコアンペア・ダイオードには1200pFによるブートストラップが掛けられており,上記と同じくその両端は交流的にゼロボルトとなっています.ピコアンペア・ダイオードの順方向特性は普通のダイオードと同じですが,ゼロバイアスや逆方向で使うと10の12乗オームを超える高抵抗を容易に得ることが出来ます.もちろん固定抵抗器でもOKですが1GΩを超える抵抗はサイズが大きく高価で現実的ではありません.
基板の配線にも匠の工夫があります.2段目のエミッタから初段のFETやその周りの配線に対してガードドライブが施されており,さらにテフロン端子と空中配線でより絶縁が強固なもになっていました.
今回4006の回路を読んで思ったのですが,見た目に簡単な回路に凝縮されたアナログの知恵と工夫は脱帽です.これまでにもノイマンとかAKGとかショップスとか有名マイクの内部回路を見てきましたが,これほど感動した回路はありませんでした.さすがはB&Kでその音の秘密の一端を見た感じです.(つづく)